ぽんは愛するより愛されたい

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菩薩のスクリーニング

基本的に料理は私が担当しているが、週に1度くらいは旦那(菩薩)が料理を担当してくれることがある。

というより、そうなるように仕向けた。

菩薩は結婚するまでずっと実家暮らしだった。そんな人間にありがちなことだが、菩薩は料理ができない。包丁の握り方が危なっかしく、油を怖がる。そして料理が好きではない。料理にはとても時間がかかるのに、食べてしまうのは一瞬だから料理は空しい、と言う。早食いの菩薩らしい感性だと思う。

一方で私も実家暮らしから結婚したが、昔から休日に昼食を自分で料理する習慣があったことと、結婚を見据えてたまに料理の練習をすることがあったため、菩薩よりは料理ができる。とはいえ、私の料理スキルはパスタ作りに集約されていて、他の料理は未だにレシピがないと難しい。困ったものだ。

私が結婚して真っ先に考えたのは、料理のことだった。

現在の料理スキルだけでいえば、私が料理を担当するのが望ましいに決まっている。その上、菩薩と私では私の方が勤務時間の短い仕事をしている。その観点からも、私が料理を担当する方がいい。

が、しかし。

私が妊娠して悪阻が酷く料理ができなくなったら?

私がインフルエンザにかかって料理ができなくなったら?

私が入院して料理ができなくなったら?

毎日スーパーの惣菜?冷凍食品?外食?素敵な選択肢だが、毎日続くと飽きてしまうし、何より体調不良の時にスーパーのコロッケはあまり食べたくない。良ければ家でおかゆとか作ってほしい。そして私をいたわってほしい。

と考えると、菩薩は料理をしなくていいよ~私がやるよ~とは言わずに、菩薩の料理スキル向上のための策を練るべきではないのか、という結論に達した。そのための週一料理担当制度である。私の仕事時間が長い日かつ菩薩が早く帰ってくる日だけ、料理をお願いすることにしたのだ。

 だがしかし、いくら菩薩が慈悲の心と海のように深い愛情を持っていても、料理スキルがほぼゼロのアラサー男子に突然料理を要求するのは酷だろう。私なら5分で心折れる。そして惣菜に逃げる。

ということで、菩薩に料理を頼むときは、冷凍の魚を用意することにした。解凍してレンジに突っ込めば一品出来上がりである。このために結婚するとき、お高めの高性能レンジを購入した。本当にできる子で助かっている。

そしてみそ汁。具は、最初は切って冷凍してあるきのこ、塩漬けにした大根、乾燥ワカメなどなどを用意し、包丁を使わなくても作れるようにした。菩薩はみそ汁に一家言もっているようで、自ら率先してだしパックでだしをとり、味噌を溶かしてくれる。最初は包丁なしで作ってくれていたが、じきに具のバリエーションを増やしたくなったのか、玉ねぎやらじゃがいもやらを切って入れてくれるようになった。成長である。

あとは米を炊き、欲しければ冷蔵庫に入っている豆腐を小皿に取り分ければ夕食の完成。特別な献立を考えなくてもいいし、火加減で失敗することもない。調味済みの冷凍魚を買っているので味付けの失敗もない。やる気がなければ包丁を使う必要もない。我ながら完ぺきな策だと思う。

そんなことで、菩薩が夕食を作るときは「焼き魚+みそ汁」が定番となっている。1年以上続けているので、とうとう菩薩はみそ汁を抵抗なく作れるようになり、他の料理にも挑戦しようとするようになった。アッパレ。その調子。

 

そんな菩薩が、最近会社で料理の話をすることがあるらしい。基本的には男ばかりの職場らしいが、最近は女性の数も増えてきて、料理の話になることもあるそうだ。「僕、今日は料理当番なんです。」と菩薩が言えば、女性社員はほぼ全員、ちょっと固まった顔でこう言うそうだ。「え、料理、できるんですか?」確かに少し前までは全くできなかったが、そんなに料理出来なさそうに見えるのかと少し落ち込むらしい。正直、料理をしていそうな風貌ではないし、器用そうでもないので、そう思われても仕方がないとは思う。

「結婚してからするようになって」と菩薩は続ける。「とは言っても、冷凍の魚をレンジに突っ込んで、みそ汁作るだけなんで、料理と言えるかどうか。」そこまで言うと女性社員、特に子供を持っているお母さん社員は食い気味にこう言うらしい。「それは立派な料理です。いいですね。すごいですね。」それを聞いて菩薩の料理テンションは上がるらしい。その調子です女性社員のみなさん彼を褒めちぎってください。

男性社員に同じように「今日は料理当番なんです」と言うと、大体が「へー」とか「マメだね」とか「奥さんは?」とかいう反応らしい。

きっと料理をよくする人は、魚焼くとかみそ汁作るとかの面倒くささをよくわかってるんじゃないかな、と菩薩は言う。だからきっと褒めてくれるんだよ。この話に食いつく人は料理スキルが高くて、あまり興味を示さない人は料理スキルが低いのかもね。ここまで話して、関西人である彼はしっかりとこう付け加える。「知らんけど。」

 

つい最近、年上の男性と話をする機会があったとき、たまたま菩薩の料理担当の日だったため、話の流れで「今日は僕、料理当番なんです」と言ったらしい。「君、料理なんてするの?」「はい、と言っても、魚をレンジに突っ込んで、みそ汁作るぐらいですよ」ここまではいつもの流れだが、それを聞いた男性の反応に菩薩は驚いたらしい。彼は

「それは料理とは言わないよ」

と笑ったそうだ。

その日家に帰ってきた菩薩は、その話を私にした後、ちょっと考えるような顔をして言った。「あの人、料理してないよ、絶対。」それは私もそう思った。きっと料理をしている人は、焼き魚とみそ汁を用意することの偉大さを理解していると思う。「それ言っちゃダメだよね、アレ絶対、奥さんとケンカになるやつ」ケンカだけで済めばいいけどな。「言ったら奥さん怒るよね、ホント、世の中のお母さんが怒る理由、ちょっとわかった気がした。ダメだよ、せめて労わないと」

焼き魚とみそ汁、いつも作ってくれてありがとう。

そう言うと、菩薩は笑って言った。「ちゃんとした料理はしてないよ」